理事のリレーメッセージ
理事10名が個人の経験や考えについて、毎月交代でメッセージをお送りします。
平成19年度(2007年4月~2008年3月)
2008年3月 理事のリレーメッセージ
上海の春節
知人のKさんから、二月七日に年賀状が届いた。郵便が迷子になっていたわけではなく、Kさんは賀状を旧正月に出す人なのだ。と云うわけで、今年の旧暦元旦は二月七日。中国では、春節です。
春節といえば、何年か前に、上海の謝さんの家で過ごした正月が忘れられない。元旦なので、一家眷属寄り集まり、玄関ドアを開けた私が、大きな声でシンネン・カイロー(新年快楽)!と挨拶すると、遠来の珍客にみなが一斉に拍手と笑顔で迎えてくれました。
謝さんの奥さんは付きっきりでお節料理を私の皿に取り分け、息子のユウ君は将来科学者になりたいと語り、姪の高校生・ヨウさんは私のために中国の民謡を歌ってくれました。知らぬ間に夜も更けて、空には大きな花火が次々と揚がっているのでした。
世界は、本当にせまくなりました。一緒に並んで煙草をすった謝さんのお祖父ちゃんが、若い頃に日本軍と戦った事を後になって知りました。
お祖父ちゃんにはポートレート写真を日本から送り、その後丁寧な毛筆の礼状が届きました。個人と個人の小さなつき合いが、大きな一歩の始まりのような気がしています。
理事 鈴木龍一郎
(写真家・日本写真家協会会員)
2008年2月 理事のリレーメッセージ
ほっといてくれ
年をとって第一線を退いたあとは、せめて自分本位に生きる、好きなことをやり、好きなものを食べ、のんびり過ごしたいと願っている人は多い。私もその一人である。ところが、国家財政というお金の論理が、これに待ったをかけている。すなわち、一昨年の介護保険制度改正以来、介護予防とか栄養ケアマネジメントということが強く打ち出され、要介護の者は国の財政を危うくするから、国民は年を取っても体のあちこち鍛えて元気で長生きすべきであると、国を挙げて宣伝している。「健康寿命」とか「メタボリックシンドローム」など聞きなれない用語まで作られ、健康でなければ生きている価値はないのかと食ってかかりたくもなる。
栄養ケアマネジメントにしても、病人でもあるまいし、栄養の個別ケアと銘打って、食物をこまごまと管理されるのも好むところではない。言うまでもなく、自分がどう生きるかということは自分の問題であって、国がとやかく言うのは筋違いというものである。
自分流に生きて、介護が必要になったとき、自分にあった介護が受けられるというのが、本来の介護保険の趣旨ではなかったのか。いかに福祉財政が厳しいからといって、いざというときのための介護保険料が、余生を楽しむべき人々の介護予防に費やされるのはなんとしても合点がいかない。世の中どこか狂ってしまっていないだろうか。
理事 相羽孝昭
(社会福祉法人 アゼリヤ会 特別養護老人ホーム みやま大樹の苑 施設長)
2008年1月 理事のリレーメッセージ
福祉での考え方
福祉はサイエンス(科学)が私の持論です。老化は加齢と共に細胞数が減り、それに伴って起こる機能低下です。転倒骨折や誤嚥による事故はそれに起因します。これは老化の本態を科学的にみると止むを得ないことなのです。
老衰がくる年齢には個人差があります。これは遺伝子や食生活にも関係があります。食べもせず水分もとらずに一日中眠っている状態は死を迎える人間の自然の姿です。点滴や経管栄養で少しでも延命させる方が良いか。飲む気力も体力もない人にどう向かい合うか。考え方の問題になります。『尊厳死』は、脳死状態の時に生命維持装置をはずして欲しいという事前の意思表示です。皆さんは老衰で食べない飲めない状態になった時に点滴や経管栄養をお望みですか。外国では終末期は自然にまかせるケースが多いのです。
こうしたことを福祉の現場から発信し、皆さんに考えて頂きたいと思っております。
理事 内野滋雄
2007年12月 理事のリレーメッセージ
歴史と伝統?
元イラク派遣の自衛隊の隊長が、先の参院選で当選し、オランダ軍が攻撃されれば、同軍支援のため独断で自衛隊を戦闘行為に参加させる決意だった、と自慢げに発言しました。彼に轟々(ごうごう)たる非難の声は上がりませんでした。しかし、旧日本軍がシビリアンコントロールに服さず独走した歴史の事実にてらすと、この発言は本人さえ意識していないであろう危険性をはらんでいます。
また、沖縄戦での集団自決が日本軍に強制されたものであるとする教科書の記述を文科省が教科書検定で削除したことを受けて、9月29日、11万人もの参加を得た沖縄県民集会が、これに抗議しました。国民の生命を守るべき国軍が満州でも沖縄でも、国民の危急存亡の危機、まさにその時に国民を見捨てたという歴史の事実を歪曲(わいきょく)するものだからです。
あっという間に庁が省に昇格し、不正規雇用の増大が偏った愛国心への収斂(しゅうれん)を可能にする環境にあるとき、品格のない旧日本軍の悪しき伝統を引き継いでいる隊を、軍に昇格させてはならない(憲法9条を守り抜かなければならない)と、改めて思いました。
理事 板垣光繁
(江東総合法律事務所弁護士)
2007年11月 理事のリレーメッセージ
旬万歳
最近季節感が無くなったという声を聞く。栽培の技術革新や冷凍保存の普及さらには輸入品の増加によって、デパートや専門店ではなく、近所のスーパーでも冬に西瓜やトマト、輸入品の南瓜などが並んでいるし、鰻の蒲焼などは一年を通して置かれている。たしかに食に関しては季節感が薄れてきていると思う。
旬という言葉がある。初物の時期や一番収穫量の多い時期を表すときに使われることもあるようだが、やはり一番美味しい時期を表している言葉だろう。
旬の食材を主役として使うか脇役として使うかは別にして、その美味しさを引き出す料理は数多くあるのだろう。そんな料理をその時々の季節を感じながら、時には冷えたビールを、時には燗酒をともに食せれば最高の幸せだ。松茸のように高価なものでなくてよく、竹の子の炊き込みご飯、秋刀魚の塩焼き、鯖の味噌煮など庶民の味で十分だ。余談だが鰻の旬は冬で、夏獲れた鰻は味が落ちるそうだ。
理事 石川國雄
2007年10月 理事のリレーメッセージ
中欧の宝石箱
この7月下旬に、孫連れで一家の中欧旅行を楽しんできた。ブダペスト、ウィーン、プラハなど中欧の、どこでも美術館のような美しい街々をめぐってきた。石の文化が街の景観をわが国とは違った美しさに育て上げた。しかしどの街でも、石の古い建物の外壁が黒く薄汚れていて、それが排気ガスなどの汚染だと聞いて、大気汚染の惨さを知った。数年前には、ブタペストでもプラハでも、ドナウ川、モルダウ川の氾濫があり、市街が数メートルにも達するひどい浸水に見舞われたが、それも温暖化によってアルプス氷河の急速な溶解と降雨の影響であったことを思うと、美しい中欧の宝石箱も、温暖化の厳しい波の中にあることを改めて思い知らされた。
理事 小笠原祐次
(中部学院大学特任教授)
2007年9月 理事のリレーメッセージ
四季
春 古木の桜に蕾が芽吹き、満開から花吹雪 そして若葉の5月。夏には葉が繁り、憩いの木陰をつくってくれます。秋には紅い葉となり 風に舞い、気がつくと黒い大きな幹と枝だけとなり、冬眠のように太陽をいっぱい浴びています。きっと幹の体内にぬくもりを溜め込んで、春の芽吹きに備えているのでしょう。
こんな風に私たちは植物から、四季の移ろいを知り、豊かな恵みを受けて一年を過ごします。植物は春夏秋冬を一年で繰り返していますが、私たち人間を含む動物は一生をかけて春夏秋冬を過ごすように思われます。子どもたちは胎内から生まれ出る芽吹きのときから花開くまで、誰かの庇護が必要です。お年寄りは、春夏秋のときを経て、次の世代にエネルギーをバトンタッチする冬ごもりの時かも知れません。
子育ても介護も人生の四季をあたたかく支えるものでありたいと思います。
常務理事 鈴木恂子
(府中市立あさひ苑施設長・社会福祉士)